市民バンクは『融資』→『ファンド=投資』→『ムラバハ=トラスト』と常に新しい試みをしてきました。しかし、お金を持っている人が働かなくとも稼げる仕組みに疑問を持ちました。「金利の否定」です。知恵や技術、冒険心で優位性を保つのは納得ですが、「持っているだけ」というのは、どうもスッキリしません。貸し倒れのない市民バンクの実績は融資件数148件、総額6億661万円で、その使命を果たし、終了することとしました。
金利を放棄してできる支援方法を考えました。それが「金だけでない支援」としてのファンドでした。働く人と一緒にリスクを取りながらコミュニティビジネスを育て、今年の3月に10年を経て終える『地域維新ファンド』の解散の際に、出資してくれた皆さんに「NPO控除に寄付を」と呼びかけたところ201万円を43人の方から頂くことが出来ました。金だけでない支援の実績が協力を引き寄せたと感謝しています。知恵や技術での応援、協力者のネットワーク作りなどで販売でも協力するファンドは総額3億2440万円で近く終了予定です。
3・11の津波で東北の仲間が被害に遭われました。すぐに現地に飛び、海沿いに建っていたレストランを応援しようと決断し、その場で契約書もなしにお金を用立てました。その方は「銀行から貸してあげるよ」と言われていたのですが、返済を考えると借りる気が起きなかったと言います。そこで考えたのがイスラム金融のムラバハです。これは金利を取らない代わりに売上利益を得ることで成り立たせる仕組みで、事前にお客さん(商品購入者)を予定して、その売上代金から返済を得るというものです。借りた人から見れば、将来の仕事が確保され、その復興過程でできた商品を協力者に売り、商品で借りたお金を返済できる訳ですから一石二鳥です。これを信頼の輪で結ばれた貸し借りということから『トラスト』と名付けました。
考えてみますと、市民バンクは金融業務というより、『人材育成』を目指してきたことに気付きました。そして、NPOへの寄付に対して税控除される仕組みを活かして、私たちへの寄付金の機能をどう位置付けるべきかネーミングを考えてみました。最初はミッション(志)マネーかなと思ったのですが、もっと具体的な「国境・世代を超えた志やモノ、知恵、技術、人材の交換ができる平和な社会構築」を目指す輪を広げる『交換』の一つの機能なのだと気付きました。ですから、交換を邪魔する戦争は安心社会の最大の敵、そこと戦う人材育成のためのお金でもあります。そこで、私たちが作ろうとしている寄付文化を『育成トレード(交換)』と呼ぶことにしました。
振り返れば7年前にフェアトレードをコミュニティトレードと名付けたことも、WWBジャパンでの人材育成、先輩起業家との交流交換もトレードという育成の仕組みとして、今までやってきたことが全て結びつきました。こんな私たちの実績から寄付の輪が広がったのでしょう。3か月という短期間に総額1100万円を超える寄付が集まりました。日本にも寄付文化が根付き始めているのかもしれません。
第二近代(安心社会)という概念はドイツの学者、ウルリッヒ・ベックが言ったものです。人類は経済的には豊かになったように見えるけど、実際には競争社会やリスク技術の上で「不安な社会」になっていないか。そんな、勝者も不安になる競争社会(第一近代)から、安心の第二の近代を人類は志向すべきではないか、という問題提起です。環境や健康に良い技術は取り入れるけど、どこかで「足るをもって良しとする」そんな生き方、社会の在り方を模索するものです。
国境を越えて作る安心社会はアジアの国々との強い協力関係から生まれます。私たちはそんな社会作りに金融、投資、ムラバハなどの仕組みを人材育成に役立ててきましたが、今後、皆さんからの寄付もそこに使います。既に、カンボジアでは42haの畑を開墾していますし、インドネシアではまず3haから始めますがいくらでも増やせるパートナーがいます。国内の楠の20haも合わせて、国境を超えた自給自足の安心社会作りを目指したいと思います。
TPPで日本という地域は遺伝子組み換えも何でもありの家畜並みの食糧になりかねませんから、まず、寄付を頂いた方にはパスポートを用意しておいて頂き、いざと言う時には安心安全を求めて、「畑へ」お越しください。ご家族も含めてお引き受けできるようにしておきたいと思います。
平成26年3月
市民バンク代表 片岡勝
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