スリランカが内戦後に抱える問題
30年にわたる内戦が終結したスリランカ。
現地では国内和平から復興へと人々の関心が移っています。そこで、次にどのように復興するかが問題です。スリランカのカレーの壺の生産者のマリオさんは、これを二つの問題意識から出発して解決を目指そうとしています。
一つは、内戦終結で、戦争という職を失った多くの少年兵をどう路頭に迷わせずに社会復帰させるか。もう一つは、スリランカは農業国ですが、エネルギー、資材価格上昇の流れの中でやがて競争力を失い、後継者を失い、海外資本に土地ごと買い占められるようなことにならないようにどうするかです。
国内和平後、内戦から開放された元少年兵たちが向き合わなければならないのは、貧困と言う厳しい現実です。政府やNGOは、厚生施設で元少年兵たちを受け入れ、勉強を教えたり、工作、裁縫などの職業訓練を行い、主な出身地であるスリランカ北部のジャフナ地方に帰しています。しかし、マリオさんによると、田舎に帰った後、平均0.25~1haの零細農家の実家に帰っても、農畜産業で多少の人手になったとしても、どちらかというと家計負担が増加するだけで、家庭内での貧困の再分配となってしまうと言います。
また、手に職をつけたとしても、地元に働き口があるわけでもなく、自分で何か始めようにも資金がありません。また、元少年兵の中には成人もいます。政府やNGOの厚生施設は主に未成年を対象にしていますが、30年と言う内戦の期間で、30代、40代となった、無学で手に職がない人もいます。マリオさんは、年齢を問わず、元少年兵が更生できる機会が必要だと考えています。その数は少なくとも2万5千人以上には上るだろうとのことです。
一方、食料以外の大部分の資材を輸入品に頼るスリランカの一部の農家は、ガソリンを使うトラクターを使うのをやめて、牛車を復活させたりと、経営の維持と生活防衛の知恵で対抗しています。しかし、守りだけではいずれ限界が来るかもしれないという危機感があります。
そこでマリオさんは、元少年兵たちをスリランカの農業の未来を切り開く先兵として再教育し、彼らに投資することで、彼らを触媒として二つの問題を同時に解決できるような案を考えています。
マリオさん「武器を鋤の刃に変えたい」
少年兵の制度によって若者が紛争しか知らないといい、マリオさんは「平和の農家」プロジェクトを開始したいと言いました。
民族紛争の間、LTTE(イスラム・タミールの虎解放戦線)は、子供たちを歩兵としてリクルートしました。ある人は最愛の人の身代金として、ある人は大多数のシンハラ族に対する憎しみを植えつけられて、またある人はいわゆる偉大なタミール人になりたいという若気の至りのために参加し、そして同じ人間に対して恐ろしいテロ行為を仕掛けるよう誘導されました。
7000人以上の少年たちがいまだに身柄を拘束されていて、信頼できる機関がリハビリ後、社会復帰させることが求められています。このプロジェクトのビジョンは、「少年兵から農業起業家へ」というものです。チベット指導者のダライ・ラマはかつて「食は人間関係の基礎」と言いました。プロジェクトは、リハビリした少年兵がもう一度社会とかかわる基礎を作ろうというものです。これは彼らが持続可能な農業の効用を地域社会に持って帰るチャンスになります。
プロジェクトでは、一箇所の農場に30人の若者を配置して、農業で自給自足の生活ができるよう道具を与え、村の中で働いていくという試験的な計画を考えています。施設ではオーガニック・自然食品や飲料を一から作って製品にするまでの全工程を学びます。
こうして自分が畑に近いところにいたいという思いを叶えながら、社会企業家としての役割も果たし続け、国内和平という大儀にも役立てます。同時にプロジェクトは、農業ビジネスと農業の新しい側面として人々の目に留まり、一つのライフスタイルとして教育を受けた都会の若者をひきつけ、今度はスリランカが戦っている貧困と食糧安全保障の戦争に対する歩兵として貢献してくれたらと思っています。
マリオさんは「武器を鋤の刃に変えたい」と言っています。
スリランカと日本が協力して問題解決
最近、マリオさんから新たな提案が届きました。
それは、日本の若者と一緒にこの社会的農業の起業にチャレンジしたいというものです。
まず、日本の若者がスリランカに来て、元少年兵とペアになって、マリオさんの提携農家の元で半年間農業研修をする。そして半年後に二人で農業での起業プランを立て、それをジャフナの実家の農家に帰って実践する。たとえば、牛を10頭新たに飼って育てる。牛から乳を取って売る、あるいは乳製品を加工して売ることでもいいし、果物を新しく栽培して売るのでもいい。作るところから販路を作るところまで自分でやる。日本人のパートナーは、自分自身や周りの人から起業資金の一部出資を募る。そして5年後には事業を軌道に乗せ、出資金を元少年兵が買い戻す形で自立を果たす。マリオさんはその全過程で応援する。また、マリオさんによると、形になった案件には政府の支援も得られる感触を持っているようです。
物価上昇、就職難、地域格差の拡大など、日本にも様々な問題があるのは事実ですが、それでもマリオさんによれば、日本には快適な暮らしがあり、圧倒的な先進国であり、世界になお多くの貢献ができると映っています。一方、スリランカの元少年兵たちの状況は、日本の若者の想像を絶する極限状況にあります。
マリオさんは、こうした事業が一緒にできれば、それは日本人の名誉を高め、また日本の地域再生へつながるヒントの発見にもつながるのではないかと言います。こうした事例を5~10件ほど作りたい。それに成功すれば、世界の他のパートナーとも広めるつもりだと、マリオさんは意気込んでいます。