グアテマラでコーヒーを栽培する、サンタ・フェリサ農園のアナベラ兄妹。自然豊かな美しい農園で、品質・栽培方法にこだわり、グアテマラ最上級グレードSHBのコーヒーを作っています。
「サンタ・フェリサコーヒー」を届けてくれるのは、グアテマラにあるサンタ・フェリサ農園。アカテナンゴ火山の麓に位置し、1904年創業で110年以上の伝統があります。現在は4代目のアントニオさん、アナベラさん兄妹が、グアテマラ最上級グレードSHB(※1)のコーヒーを生産しています。
コーヒー鑑定士の資格を持つアナベラさんは、自分で「Coffee Lover」というほどのコーヒーオタク。世界各地からめずらしいコーヒーの木を集め、農園の一角で実験的に栽培しています。
※1 SHB(ストリクトリー・ハード・ビーン)は、1,350m以上の高地で栽培される最上級品で、昼夜の寒暖差により、実がしまって良質の酸味とコクがあります。
日々おいしいコーヒーを追及しているサンタ・フェリサ農園は、最近のグアテマラCOE(カップ・オブ・エクセレンス)(※2)で2位、翌年には1位入賞を果たしました。
農園内のラボラトリーには、圃場ごとのサンプルが驚くほど細かく整理されています。ティピカ、ブルボン、パカマラ、ゲイシャといった品種による分類はもちろん、それぞれの品種で植林して何年か、圃場の標高、収穫後の工程においてウオッシュド、パルプドナチュラル、ナチュラル、ダブルソーキング、アフリカンベッドで乾燥させたものなど、それぞれの組合せによる風味のちがいを研究しています。
第3世界ショップのサンタ・フェリサコーヒーは、ティピカを中心にウォッシュド(水洗式)で加工したもの。安定感のあるクラッシックタイプで、風味はクリーンでキレがあるのが特徴です。
※2 COE(カップ・オブ・エクセレンス)はコーヒーを輸出する各国で行われるコンテストで、出品された数百の優れたコーヒーからほんのわずかのコーヒーにしか与えられない称号です。
アナベラさんが大学を卒業し、本格的に栽培管理を担当するようになった1998年、農園は有機栽培に切り替えました。農薬や化学肥料を使わなくても、自然の力を最大限に活用して栽培できると考えたからです。一次的に収穫量は減ったものの、その後順調に発展していきました。
しかし、2011年に大規模なさび病がこの地を襲い、8割以上の木がダメージを受けると、農園存続のためやむなく農薬を一部使うことにしました。その後も圃場の様子を注意深くみながら、1本の木に5%以上のさび病の症状が出ているときは、その木のみに農薬を散布するという必要最低限の使用法を守っています。
「こんなにシェードツリーが必要ですか?」というのが、農園に着いて最初の感想でした。「この地域は雨季、乾季がはっきりしていて、半年続く乾季の日差しに耐えるには、これくらいの木が必要です。そうしないとコーヒーの実が早く熟し過ぎてしまう。コーヒーチェリーは、緑から赤にゆっくりゆっくり熟していくとおいしいコーヒーになるのですよ」とのこと。
コーヒーの木は直射日光に弱いため、背の高い樹木を「シェードツリー」としてコーヒーの木と一緒に植え、適度な日陰をつくります。シェードツリーを圃場に植えると、単位面積当たりの収穫量が少なくなり、また樹木が混在しているため機械を使うことができず、手間のかかる手摘みで収穫することになります。一方、コーヒーのみの単一栽培と比べて、多様な樹木、生物が存在し、自然に近い環境が保たれます。
農園では、シェードツリーは年に1回手入れをして枝を大きくカットします。この作業をしないと、暗すぎてコーヒーの木が光を求めて上へ上へと伸びしてしまい、収穫しづらく生産性が落ちます。かといって明るすぎてもダメで、おいしい確かなものを作るには、本当に手間ひまがかかります。カットした不要な枝は、燃料として近所の人々が利用します。
シェードツリーは、オーストラリア原産のグラビレア、この地域原産のシダ、バナナ、アボカドなど。鳥や動物たちとの調和も考え、何種類かの樹木を混栽して多様性を持たせるようにしています。新しい圃場の準備には、シェードツリーを植えて6年、次にコーヒーの苗を植えて3年、つまり、収穫できるようになるまで約10年はかかるといいます。
様々なシェードツリーが茂るサンタ・フェリサ農園は、本当に健康できれいな森のよう。
地面には、一面黄緑色にきれいに雑草が生え、そこにつやつやとした深緑色の葉をつけたコーヒーの木が、堂々と立ち並びます。そして目を上げると、様々なシェードツリーから柔らかな木漏れ日が。その中を蝶や鳥たちが舞います。桃源郷のような美しい風景でした。
アントニオさんたちは地域の自立のためにも教育は非常に大事だと考えていて、小学校や保育園の運営に積極的に取り組んでいます。
農園では1977年に園内の土地を提供して小学校を誘致しました。生徒の内9割は従業員の子供たちですが、近所の子供たちも通えます。授業は7時半から始まり、農園での作業が忙しい両親に代わって学校で朝食を提供しています。学校では、地域の女性たちが生き生き働いているのが印象的でした。生徒たちはとても人懐こくてかわいいです。
保育園はアカテナンゴの町中にあります。本来3歳~7歳の児童向けですが、家の事情で10歳、11歳の子供たちもいます。共働きや両親のどちらかに問題のある家庭、また母親が手に職をつけるためにクラスに通っているときなどに、利用できるようになっています。
ここの子供たちはさらに人懐こく、手を握ってはなさなかったり、抱きついてきたりしてとても愛おしくなりました。 保育園内には女性と子供のためのクリニックがあり、定期的に医者が検診をしています。
この保育園の目的の1つは、宿題の面倒を見ること。「とにかく教育が大事。教育があれば、子供たちの将来の選択肢が広がる。字も書けない、計算もできないでは、弱者のままとどまるしかないから」と、代表の女性は言います。
小規模農園として、マヤ文化の色濃い現地の生活に溶け込みながらも、自分たちの知恵と持てるものを活用して最先端のコーヒーを研究し続けるアントニオ兄妹。グアテマラでは治安上、農園の警備はかかせませんが、アナベラさんは今日も馬に乗って、またあるときはドローンを飛ばして大好きなコーヒー農園の見回りを続けています。