メキシコでオーガニックのドライマンゴー・ドライパイナップルを作るカロリーナさん。他のマンゴー農家に有機農法を指導するなど、情熱を持って仕事に取り組んでいます。品質管理により適切な熟語のマンゴーを選ぶことで、砂糖や添加物を使わずに、濃厚な甘みとほのかな酸味のドライマンゴーを作っています。
メキシコ北部の港町マサトランから内陸入ると、マンゴー農園がそこかしこに広がっています。農業が盛んで、マンゴー以外にもチリ、ピーマン、トマト、トウモロコシ、サトウキビなどの農産物がたくさん採れる地域です。
30年ほど前に、地元の名産品マンゴーを使った事業を興したのは、カロリーナさんのお父さんです。お父さんは市長を引退した後、地元のコミュニティ創りに貢献できる商売をしようと、フレッシュマンゴーを売る事業を始めました。
これまで経験したことのない仕事で、初めは大変苦労しましたが、娘のカロリーナさんも一緒に事業を盛りたてて一生懸命働きました。そのうち商売が軌道にのり、マンゴージュース・ドライフルーツ等の加工もするようになりました。
同時に、以前から持続可能な農業に取り組みたいと思っていたので、思い切って有機栽培に切り替えることにしました。今はカロリーナさんがお父さんの事業を引き継ぎ、夫のアレクシスさんもエンジニアの仕事をしながら手伝っています。
この地域のマンゴーは、5月~8月に収穫します。マンゴーの樹は、植えて5年後に実をつけ始め、50年~60年は収穫出来ます。樹から垂れ下がるような細い枝の先に、いくつもの実がなります。
1本の樹から通常150kgほど、多いものでは300kgのマンゴーが収穫できますが、たくさんの実がなりすぎて、その重みに耐えきれなくなって倒れてしまう樹もあるほど。手の届く実はマチェーテという鉈(中南米でよく使われている農具)で、高い場所は棒の先にハサミと網のついた道具を使って収穫します。
有機栽培のマンゴー農園では、雑草のコントロールも大切な仕事です。菌の発生が大敵なので、雨が降って湿っぽくなった時は要注意。畑をマメに見回り、1本1本の樹の根元からマチェーテで雑草を刈り取ります。
マンゴー農園で働くワーカーは、近所に住む人たちです。20~25人ほどのチームのリーダーは、30代のオクタビオさん。70代~80代の高齢なワーカーが多い中で、飛びぬけて若いリーダーです。地元の小学校を卒業した後15歳で結婚(!)した、地元好きの働き者です。ワーカーの皆さんは朝から夕方までよく働きますが、マンゴーの世話や収穫のない時期はお休みします。
「以前、他の会社が農閑期の仕事創りのプロジェクトをしていたことがある。マンゴーの仕事がない時期に、事務仕事などをしてもらい、仕事・収入が途切れないようにしようというプロジェクト。だけど、失敗したみたい。」とカロリーナさん。1年を通して安定的に仕事があるよりも、自然のサイクルの中で仕事をし、収穫が終わったら長めのお休みをとる生活があっているようです。
カロリーナさんの農園では、収穫時期が終わった後にはパーティーを開いて、良く働いた人にはカロリーナさんからプレゼントを贈ったりして、コミュニケーションもとても大切にしています。
収穫したマンゴーは加工工場に運び、まずはサイズや熟度、糖度などのチェックをします。カロリーナさんは、「熟度に気をつけることこそ、美味しいドライマンゴーの秘訣」だといいます。
このドライマンゴーは、ただ切って乾燥しただけ。砂糖や添加物など余計なものを加えていないので、マンゴーそのものの熟度がぴったりであることが美味しさの必須条件です。
熟度が適切でないと、その後どんな工程をしてもリカバリーは効きません。工場で働くワーカーは、いつもマンゴーを触り続けているので、触っただけで熟度がわかります。
熟度などのチェックに合格したマンゴーは、皮を剥き、平たい種をよけてカットします。このときのマンゴーは、1センチくらいの厚みがあります。カットしたマンゴーを、トレイに並べます。大きさの違う切り身をさーっとトレイにまいて、あっという間に隙間なくマンゴーが敷き詰められます。
乾燥室で、6時間~12時間くらい熱風乾燥すると、ドライマンゴーの完成です。乾燥前は1cmほどあったマンゴーから水分が抜けて、美味しさがギュッと凝縮したドライマンゴーになります。
輸出前には、人の手と目で最終チェックが入ります。くっついてしまったドライマンゴーを1枚1枚はがして、ライトのついたルーペで、色のおかしなもの・異物などが入っていないかチェックします。
ワーカーごとに袋があり、それには番号が書いてあります。その番号を見れば、マンゴーの畑・加工した日・最後のチェック担当者などが分かるようになっています。チェック担当者がわかる=責任があるので、ワーカーそれぞれがきっちり仕事をすることにもつながります。
政治家からビジネスマンに転じたお父様の事業を引き継いだときには、2人の子供を育てながら、寝る間もなく働いたというカロリーナさん。市長の娘さんといったお嬢様感がにじみ出る上品な姿からは、想像できないガッツがあります。
フレッシュフルーツのドライ加工を始めた頃は、サンプルがほしいと言われて方々に出荷しても、その後のビジネスにつながらないことも多く、苦労したといいます。それが今では、カロリーナさんのドライフルーツは、収穫前からすでに予約済状態だそう。
現在では、インドのマンゴー農家を受け入れて有機農法を指導することもあります。オーチャード(木々が整列したした果樹園)と呼ばれるよく整備されたメキシコのマンゴー農園とちがって、インドの山の中の農園は全く環境がちがいますが、それはそれでとてもおもしろい体験だったと、カロリーナさんはタブレットで写真をみせながら話してくれました。
情熱のある仕事を続ける人には、次々によい循環が生まれます。